ベローチェからはじまった

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2024.06.25

 

高校1年生の冬。僕はそわそわしていた。

 

テスト勉強をしたいのだけど、なぜか今までみたいに自宅で集中して勉強ができない。図書館は早い時間に閉まってしまう。勉強ができる場所探しに困っていた。ませたクラスメイトがこともなげに言い放った言葉に囚われた。「カフェで勉強すればいいじゃん」

 

カフェに行ったことこそあれど、それはデートの時に知ったそぶりで立ち寄ったスターバックス1回だけだった。彼女がなんとかフラペチーノを飲みたいって言ったから「僕もそれが飲みたかった」と同じものをオーダーしてやり過ごした。2人分で1,000円超えてて驚いた。テイクアウトだったからカフェの中では過ごしてなかった。

 

1人でカフェに行ってメニューの中からオーダーして席を探して過ごす。免疫がない状態でこの一連の流れがどれだけ高いハードルか。だがしかしどうしてもゆっくり勉強をしたかったので行くしかなかった。

 

新津田沼駅前のカフェベローチェ。僕が知っていたアクセスも良くて夜遅くまで営業している地元のカフェ。エンジ色の落ち着いた外装はやけに格式高く見えた。ゆっくりと重たい扉を開ける。

 

カウンターにおしゃれな店員さんが4〜5人くらい並んでいる。みんなが僕のオーダーに耳を澄ましているように思えてしまう。僕は美容室が苦手だった。美容師みんなが自分を見ているようなあの視線が嫌で嫌で仕方なくて「こんな髪型にしてみたいです」なんて終ぞ言えなかった。あの感覚が去来した。

 

一部写真は添えられているものの、カフェラテだのカフェモカだのメニューに羅列しているカタカナがどんな風味の飲み物なのかさっぱりわからなかった。メニューの後半に進めば進むほど金額が高くなっていったので、なんかいい奴が控えているのだろうということだけはわかった。

 

ベローチェは今でもそうだけど、当時カフェチェーンの中ではフードとドリンクの安さが際立って特徴的だった。確かこの当時、エスプレッソは150円とかじゃなかっただろうか。とにかく安く目立っていた。コンビニバイトを始めた高校生と言えど余裕はなし。今後も足繁く通うことを考えると1回あたりのカフェ代は安く済ませたい。一番安かったエスプレッソをオーダーした。

 

「お待たせしましたエスプレッソです」

 

そうカウンターで差し出されたエスプレッソを見て目を丸くしてびっくりした。手のひらに乗るくらいのチマっとした見たことないミニチュアのカップ&ソーサーにお気持ち程度のコーヒーが入っている。僕は咄嗟に「しまったお子様メニューを頼んでしまったんだ」と思い込み、ものすごい恥ずかしい気持ちになった。カウンター越しの店員さんがくすくす笑っているように見えた。実際はホスピタリティからくるただのスマイルなのに。

 

そそくさとミニチュアコーヒーカップを持って空いてる席を探して座り、お気持ちコーヒーを口にして高校生はもう一度びっくりする。

 

「なんだこれ苦い」

 

今振り返ると甘い、しかし当時は苦い苦いエスプレッソとカフェデビューだった。

 

それから、テスト前・受験前になると学校から真っ直ぐ新津田沼駅前のベローチェまで向かって閉店まで勉強するという日々を過ごした。いつの間にかカフェラテとカフェモカの違いもわかるようになっていた。今日もベローチェにいるんだろうって友だちが訪れたりしたこともあった。当時店内で流れていたBGMのジャズ・ボサノバ音楽が『Cafe Apres-midi』シリーズであることを知り、近所のレンタルショップでコンピレーションアルバムを片っ端から借りてカフェミュージックに浸るようにもなった。

 

ベローチェで過ごした日々は間違いなく僕を大人にしてくれた。その大切にしている時間の残り香を感じたくて出掛けた先にベローチェがあるとつい立ち寄ってしまう。あれだけ広々していて居心地が良くなるまで時間のかかった新津田沼駅のベローチェはあれからゆうに20年は経っているのにいまだに当時とほとんど変わらぬ佇まいで営業を続けてくれている。

 

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